「現代社会と人権」渡辺拓也

四天王寺大学で開講されている「現代社会と人権」のオンライン授業用の教材です。無断転載や受講者以外への不要な拡散は控えて下さい。

ホームレス問題へのイントロダクション

はじめに

 この授業は「現代社会と人権」です。ibu.netの課題でも書いたように、四天王寺大学に入学した学生は、1年次に「現代社会と人権」を必修単位として受講することになっています。「現代社会と人権」は複数の担当者がいますが、この授業の担当の渡辺です。

 この授業では、ホームレス問題を中心に勉強していきます。今年は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、このようなオンライン形式での開講となりました。毎回長くても30分程度の動画と、毎回課題に取り組んでもらうことで授業を進めていきたいと思います。

 その際、学生のみなさん一人ひとりが感じることや経験を社会とのかかわりを意識しながら理解を深めていってもらいたいと思います。

フィールドワークとは何か

 第1回目の講義では、まずみなさんに「フィールドワーク」という言葉を知って欲しいと思います。「フィールドワーク」とは、日本では「野外調査」などと訳されます。「フィールドワーク」は自然科学でも、社会科学でも用いられる研究の方法です。「野外調査」とあるように、研究室や自分の日常から離れて、自分が知りたいことを調べるために出かけていくことを言います。

 「フィールドワーク」をする人のことを「フィールドワーカー」と言います。楽しみのために旅行に行ったり、ただ外に出かけたりすることを「フィールドワーク」とは言いません。「フィールドワーク」で大切なことは、自分が出かけていった先で調べたことを、他の誰かに伝えるということです。自分の経験を誰かに伝えるためには、その経験を記録しておく必要があります。そして、その記録を手かがりにして何らかの形で報告をまとめなければなりません。出かけていく先のことを「フィールド」と言います。フィールドワーカーはフィールドで経験したことの面白さ、フィールドで出会った人たちや物事の魅力を、そのフィールドを知らない人たちに伝えようと努力します。

広い世界を知ることは自分の世界を知ること

 フィールドワークには、自分自身であるフィールドワーカー、フィールドで出会う人たち、そして、フィールドワークの成果を受けとる人たちの三つの立場があることになります。これからみなさんが大学で学ぶ際に、この三つの立場を意識する必要があります。フィールドワークに出かけることは、他人の世界を知り、自分の世界を広げることです。また、フィールドワークで知ったことを誰かに伝えることで、さらに世界は広がっていきます。大学で学ぶ学問は、このように自分の世界を広げることであり、社会とのつながりを作っていくことなのです。

 この授業の最初の課題として、みなさんには新型コロナウイルス感染症が広がる世界の中で、自分自身の生活をふりかえって記録をつけてもらいました。フィールドワークという意味では、どこかへ出かけているわけではありませんし、この外出自粛が続く中では、そもそもどこかへ出かけていくこと自体が難しい状況にあります。しかし、見方を変えれば、この一変した世界は、これまでの生活とはまったく別のもので、現在のみなさんの生活自体が新たな世界を経験している真っ最中だと言えます。みなさんの現在の生活自体が、否応なく巻き込まれたフィールドであると言えなくもありません。短い期間ですが、この授業では、今の生活自体も題材にして、勉強の機会に役立てていきたいと思います。

 広い世界を知ることと、自分の世界と出会いなおすこと、自分が十分知っていると思っていた世界の別の見方を身につけることとは、つながっているのです。

ホームレス問題へのイントロダクション

ホームレスの人たちとの出会い

 今回の授業では、私自身が出会ったホームレスの人たちの話をしたいと思います。これは、私自身の初めてのフィールドワークでもあります。
 みなさんはホームレスの人たちの姿を見かけたことがあるでしょうか。もしかすると、話したことがあるという人もおられるかもしれません。私が大学に入ったのは、もう20年以上前のことです。大学生の時に私は人類学を勉強していました。人類学のゼミに入ると、卒業論文を書くためには、最低でも3ヶ月どこかへ行って、フィールドワークをしなければなりませんでした。

 どこでどんなフィールドワークをしたらいいのか、私はなかなか決めることができませんでした。ただ、高校生のころから、「自由とは何か」ということを考えたいと思っていました。そこで、「自由とは何か」について考えるためには、逆に自分が不自由だと思えるような生活をしている人たちのところで暮らしてみたいと思いました。そうしてあちこち出かけているうちに出会ったのが、ホームレスの人たちが暮らすテント村でした。

2001年の大阪市・西成公園のテント村

 私がフィールドに選んだのは、大阪市西成区にある西成公園という公園にあるテント村でした。当時は日本全国でホームレス生活をする人たちが増えた時期で、全国で20,000人を超す人たちがホームレス生活をしていました。その半分近くが大阪で暮らす人たちでした。

 ふつう、ホームレスの人たちは、できるだけ人目につかないところで、ひっそりと暮らしています。しかし、大阪だけで9,000人近くの人たちが野宿生活をしていると、隠れようと思っても隠れられるようなものではありません。大阪市内だけで、大きな公園にいくつものテント小屋が建てられて、それが200軒、300軒と集まっていたので、自然と「テント村」と呼ばれるようになりました。

 当時の西成公園のテント村には、200軒以上のテント小屋が建てられ、200人以上のホームレスの人たちが暮らしていたことになります。

 わたしが大学生活を送っていた福岡県の北九州市でも、商店街を歩くとポツンと立ち尽くしている薄汚れた身なりの人や、大通りでお金の無心をしている人の姿、都市高速の高架下に数軒のテント小屋を見かけることがありました。それくらいであれば、一部の不幸な例外だと思って、見ないふりをしたり、避けて通ることもできます。しかし、大阪では、とても一部の不幸な例外だと片付けられない規模でホームレスの人たちが存在しており、これは明らかに社会に問題があって、何か失敗しているのだと思い知らされました。

なぜホームレス生活を送る人たちが増えたのか

 日本でホームレスの人たちが増えて、社会問題になったのは1990年代の後半のことですから、やはり20年以上の時間が経っています。なぜホームレス生活を送る人がいるのかというと、一番大きな原因は仕事がないからです。「選ばなければいくらでも仕事はあるのではないか」「死ぬ気になれば仕事くらい見つかるのではないか」と思うかもしれません。しかし、何とか仕事にありつけたとしても、毎月の家賃を払えて、ごはんを食べられるだけの収入が得られなければ、ホームレス生活をせざるをえないのです。いったんホームレスになってしまうと、仕事を探すのも難しくなります。

今回の課題

なぜふつうの人がホームレス生活になるのか

 ホームレス生活になってしまう一番の原因は、仕事がないことだと述べました。もちろん、それ以外にもいろんな原因があります。諸外国と違って、日本では生まれながらのホームレス(親もホームレスで、ホームレスの親から生まれたホームレス)はいません。みんな元は家に住んで、ふつうの生活をしていたのです。では、ふつうの生活をしていた人がホームレス生活になってしまう原因は、仕事以外にどんなことがあるでしょうか。

 今回は、ふつうの生活をしていた人がホームレス生活になってしまう原因を考えてみて下さい。これだと思うものを箇条書きにするだけでも構いませんし、こうではないかという理由も考えついた人は、それもあわせて書くようにして下さい。

 課題の提出は、前回と同じように jinken.ibu[at]gmail.com ([at]を@に置き換えて下さい)にメールで提出して下さい。また、提出する際は件名欄に「学籍番号 氏名」を書くようにして下さい(学籍番号と氏名を書いてもらうのは、提出者のリストを整理するためです。「1234567 山田太郎 課題2」というように、書いて下さい。「学籍番号」という文字を入れる必要はありません。また、数字は半角英数にして下さい)。

 課題は添付ファイルではなく、メール本文に書いてもらったほうが助かります。

 課題と合わせて、授業の感想や質問もお待ちしています。

提出締め切り

 提出は、授業時間終了後の30分以内までとします。それ以降に提出した場合、無効、あるいは原点の対象となります。シラバスでは、この授業の評価は期末テストとしていましたが、オンライン授業に変更されたことを考慮して、平常の課題と期末課題とをあわせて評価に変えます。

前回の課題について

 初回の課題を未提出の人は、今回に限り、今週の日曜日中まで締め切りを延期します。初回の課題についてはIBU.netの授業課題「2020/4/20(月) 休講期間中の課題について(必ずチェック)」を確認して下さい。