「現代社会と人権」渡辺拓也

四天王寺大学で開講されている「現代社会と人権」のオンライン授業用の教材です。無断転載や受講者以外への不要な拡散は控えて下さい。

エーリッヒ・フロム(日高六郎訳)『自由からの逃走 新版』東京創元社、1952年

 今回は、エーリッヒ・フロムという人の書いた『自由からの逃走』という本を紹介したいと思います。この本は、私が大学3回生のころ、漠然と「自由とは何か」を考えてみたいと思っていたときに先生に相談し、紹介してもらった本です。

ナチスの独裁政治

 この本の原書が書かれたのは第二次世界大戦の最中でした。ドイツに住んでいたフロムは、戦争中にアメリカに亡命します。ナチスの独裁政治による民族弾圧、政治弾圧が高まっており、その迫害から逃れるために他国に逃げた人がたくさんいました。

 当時のドイツにはワイマール憲法という、世界でもっとも民主的だと言われる憲法がありました。ところが、そのドイツでナチスの独裁政治というファシズムが生まれてきました。

二つの自由

 その理由をフロムは、当時のドイツの人びとが自由から逃げた(自由からの逃走)ためだったのだと考えました。フランスやイギリスといった近隣諸国に比べると、ドイツは近代化が遅れており、他国に追いつこうと躍起になっていました。急いで最新の仕組みを取り入れていったものの、人びとの気持ちはそれに追いついていかなかったのかもしれません。

 フロムは自由には二つの種類があると言っています。一つは「〜からの自由」です。かつての身分社会はさまざまな縛りが強い社会でした。職業選択の自由はないし、自由に移動する権利も制限されていました。今の私たちの生活では当たり前のことが認められていなかったのです。一つ目の自由は、こうしたさまざまな縛り「から」自由になることを意味しています。

 もう一つは「〜への自由」です。単に縛りから自由になるだけでは、その自由を持てあましてしまいます。何かを「する」自由を手にしたら、具体的に自分が何をしていきたいのかを自分で決めて、実行していかなければなりません。ファシズムに囚われた人びとは、何かを「する」自由を手にしたものの、何をしていきたいのかを考えることから逃げて、それを他人に預けてしまった。その結果、ナチスの独裁政治が生まれてしまったのだというわけです。

何かを成し遂げる自由

 『自由からの逃走』はフロムを一躍有名人にした出世作でした。このあとフロムは『人間における自由』、『愛するということ』、『生きるということ』など、他者を思いやり、創造的な生き方を推奨するような本をたくさん書いています。人間は自由を与えられ、またその自由を実現していくことで人生を送るべきだと考えたのです。

 これは、とてもいいことのように聞こえます。自分の夢を持って、その実現を目指すというサクセスストーリーでもあります。しかし、ちょっと考えればわかることですが、夢を持って努力したからといって、誰もが成功するわけではありません。「自分には何の取り柄もない」と気後れする人もいるかもしれません。

 最近では、このような生き方がほとんど当たり前の前提として語られるようなところがあります。「キャリア教育」というのも、その一つかもしれません。現代社会に生きる私たちは「自由に生きることを強いられる」とでも言うような、変な状況に生きています。