「現代社会と人権」渡辺拓也

四天王寺大学で開講されている「現代社会と人権」のオンライン授業用の教材です。無断転載や受講者以外への不要な拡散は控えて下さい。

コミュニケーション能力とは何だろう

コミュニケーション能力が高い人とは?

 よく「コミュニケーション能力が評価される」と言われます。物怖じせずに知らない人に話しかけたり、何を言われても即座に対応したりといったふうに、「コミュニケーション能力の高い人」はいるように思えます。「コミュニケーション能力」がその人間の価値をはかる指標の一つのようになっています。

逆にコミュニケーションが低い人とは?

 しかし、それは本当に「コミュニケーション能力」と言われるようなものなのでしょうか。「コミュニケーション能力が高い人」とは反対に「コミュニケーション能力の低い人」がいたとします。「コミュニケーション能力の低い人」は他人とのコミュニケーションがうまくとれません。しかし、そもそもコミュニケーションとは相手があってはじめて成立するものです。「コミュニケーション能力の低い人」とコミュニケーションが取れない人もまた「コミュニケーション能力が低い」のではないでしょうか。

非対称的な関係

 「円滑なコミュニケーション」は相互に高め合って可能になるものであり、個人の能力の指標とするのはおかしな話です。そうであるにもかかわらず、この言葉が「評価する人とされる人」という非対称的な関係の中で用いられているところがポイントです。「コミュニケーション能力」という言葉を使っていながら、ここで評価されているのは「何を求められているのかを察する能力」であり、その能力を評価者に対して披露できるかどうかという「態度」ないし「相性」を見られていることになります。

 「何を求められているのか察する能力」とは「やったことのないことでも、状況を見て、何をすべきかを把握する能力」でもあります。これは「コミュニケーション能力」ではなく「洞察力」や「観察力」といったものです。「洞察力」や「観察力」は、知識や経験を積むことで高めることができます。「コミュニケーション能力」という得体の知れないものを磨こうとするより、さまざまな知識や経験を積むことを大切にした方が良いのではないでしょうか。